アルデヒドデヒドロゲナーゼ2の遺伝子型決定

ISOHAIR実験例

概要

アルデヒドデヒドロゲナーゼ2遺伝子(ALDH2)について

アルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2)は、飲酒後エタノールが代謝されてできるアルデヒドを酸化して代謝する酵素です。ALDH2の欠損はALDH2遺伝子の点突然変異によるものと考えられており、対立遺伝子の組み合わせから、正常型ホモ接合体(NN型)、ヘテロ接合体(MN型)、変異型ホモ接合体(MM型)の3種類の遺伝子型が知られています。

3種類のうちのどの遺伝子型を持っているかを調べることで、酒に強いか弱いかを判断することができます。正常型ホモ接合体は酒が飲めるタイプ、ヘテロ接合体は飲む事はできるがすぐ顔に出るタイプ、変異型ホモ接合体は全く飲めないタイプです。ALDH2欠損者においては、飲酒後、血中アセトアルデヒド濃度の上昇により、フラッシング反応(顔面紅潮、動悸、悪心、低血圧等)が見られます。

3種類の遺伝子型
<NN 型>
正常型ホモ接合体
お酒が飲めるタイプ
<MN 型>
ヘテロ接合体
飲むことはできるがすぐ顔にでるタイプ
<MM 型>
変異型ホモ接合体
全く飲めないタイプ

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実験例

3検体のヒトの毛髪からDNAを抽出し、正常型特異的増幅と変異型特異的増幅を行い、アルデヒドデヒドロゲナーゼ2遺伝子の遺伝子型を決定した。

実験条件

  1. 鋳型
    ISOHAIRを用いてヒト毛髪より抽出したDNA
  2. プライマー配列
    ・Forward : 5'-CAAATTACAGGGTCAACTGCT-3'
    ・Reverse-N(野生型): 5'-CCACACTCACAGTTTTCTCTTC-3'
    ・Reverse-M(変異型): 5'-CCACACTCACAGTTTTCTCTTT-3'
  3. PCR用試薬
    Gene Taq NT(構成品: Gene Taq NT, 10 x Gene Taq Universal Buffer, 2.5mM each dNTP Mixture)
    d.d.H2O
PCR反応液
鋳型
1 µl
10 x Gene Taq Universal Buffer
5 µl
dNTP Mixture
4 µl
プライマー(Forward, 20 pmol/µl)
1 µl
プライマー(Reverse-NまたはM, 20 pmol/µl)
1 µl
d.d.H2O
37.75 µl
Gene Taq NT
0.25 µl
Total
50 μl

PCRサイクル条件
98°C 1分 -
98°C 20秒 35サイクル
60°C 20秒
72°C 45秒
72°C 5分 -

結果

Sample1ではReverse-Nのみ、Sample2ではReverse-N、Mの両方、Sample3ではReverse-Mのみバンドが確認できました。この結果から、Sample1がNN型(野生型ホモ)、Sample2がMN型(ヘテロ)、Sample3がMM型(変異型ホモ)であることが分かりました。

data1 Lane1: Marker 5(φX174/Hinc II digest)
Lane2: Sample1/Reverse-N(野生型)
Lane3: Sample1/Reverse-M(変異型)
Lane4: Sample2/Reverse-N(野生型)
Lane5: Sample2/Reverse-M(変異型)
Lane6: Sample3/Reverse-N(野生型)
Lane7: Sample3/Reverse-M(変異型)

3% Agarose 21

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補足情報

補足情報.1 プライマー配列について

上記実験例で紹介しているプライマー配列の設計は、下記論文を参考にしました。
"Characterization of the three genotypes of low Km aldehyde dehydrogenase in a Japanese population."
T. Takeshita et al. Hum Genet (1994) 94:217-223

この論文ではPCRにより人工的な制限酵素サイトを導入しています。つまりReverseプライマーのTTCAC部位をTTCTCに変えて、そのPCR産物を制限酵素で処理することによりALDH2の遺伝子型を決定しています。そのため、このReverseプライマー配列と、それに対応するALDH2のゲノム配列を比較すると、一塩基相補的でない部位があることが分かります(下記Tの部分)。

プライマー配列
ALDH2ゲノム
5'-GAA GTG AAA ACT GTG AGT GTG G-3'
Reverse プライマー(野生型)
3'-CTT CTC TTT TGA CAC TCA CAC C-5'

弊社では、制限酵素処理をせずにPCRのみで遺伝子型を決定するために、まず標的部位が確実に増えている上記論文のプライマー配列を参考にしました。そのため、上記論文で制限酵素サイトを導入するために入れたミスマッチ部位はそのまま残してあります。(補足:ミスマッチ部位を訂正したプライマーを使用した際、マニュアルのPCR条件下で非特異的増幅が認められたことがあります。)

補足情報.2 増幅領域について

上記のプライマーはALDH2のexon 12の全体を増幅します。NCBIのAccession No.はAH002599です。下記は2023.07.27現在のexon 12の情報です。最新の情報はNCBIのデータベースでご確認ください。塩基配列中のプライマー部位は赤文字で示してあります。

  LOCUS AH002599    4002 bp   DNA   linear   PRI   10-JUN-2016
  DEFINITION Homo sapiens aldehyde dehydrogenase (ALDH2) gene, complete cds.
  (中略)  
 
exon
   3325..3439
        /gene="ALDH2"
        /note="G00-119-668"
        /number=12
  (中略)  
  ORIGIN     3 bp upstream of HincII site; chromosome 12q24.2.
 
3315
          caaatt acagggtcaa ctgctatgat gtgtttggag cccagtcacc
 
3361
 ctttggtggc tacaagatgt cggggagtgg ccgggagttg ggcgagtacg ggctgcaggc
 
3421
 atacactgaa gtgaaaactg tgagtgtgg
  //  

 

補足情報.3 ALDH2遺伝子について

ALDH2遺伝子は第12染色体長腕 (12q24.2) に位置し、44kbの塩基配列中に517個のアミノ酸をコードする少なくとも13個のエクソンを有しています。プロセシングを受けてシグナルペプチドが取り除かれるため、ALDH2の成熟タンパク質は500個のアミノ酸からなります。 ALDH2活性の欠損は主にALDH2遺伝子の点突然変異によるもので、ALDH2遺伝子の第12エクソンの114番目の塩基がG(グアニン)からA(アデニン)へ変異をおこしており、その結果、成熟タンパク質中の第487番目のアミノ酸がグルタミン酸(GAA)からリジン(AAA)に置換されています。

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プライマー合成

ニッポンジーンでは、オリゴヌクレオチド合成サービスを承っております。ISOHAIR Jr.にプライマーは含まれておりませんので、スモールスケールオリゴ合成サービスやスタンダードオリゴ合成サービスをご利用いただくことで、ご希望のプライマーをカスタム合成することができます。本サービスのご利用方法はこちらをご覧ください。

オリゴヌクレオチド合成サービス

ALDH2プライマーセットをスモールスケールオリゴ合成サービスで注文する場合の注文方法

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Q & A

実験例のプライマー終濃度は?
増幅しない。
実習用キットISOHAIR Jr. 実験例より、もっと操作を簡略化させることはできますか?

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備考

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