PCR とは、Polymerase Chain Reaction の略である。文字通りDNAポリメラーゼを用いて連鎖反応的にDNAを増幅する方法である。PCR法の開発は、分子生物学のみならず、さまざまな分野に影響を与えた。
PCRの原理は、増幅しようとするDNAとその両端の配列に相補的な一対のDNAプライマーおよび耐熱性DNAポリメラーゼを用いて、3段階の温度変化をnサイクル繰り返すことによって標的DNAを2n倍に増幅することにある。温度変化の第1段階(94〜96°C)で、標的二本鎖DNAを熱変性して一本鎖とし、第2段階(55〜60°C)でプライマーを一本鎖DNAにアニーリングさせ、第3段階(72〜74°C)で伸長反応を進める。1サイクルで標的DNAは2倍になる。従って理論的にはnサイクルの反応で標的DNAは2n倍に増幅されるので20サイクルでは約100万倍に増幅されることになる。実際には数100万倍まで増幅することができる。
・・・・・・図 PCRによるDNA増幅の原理
このようにPCRは非常に簡単にDNAを増幅できるわけであるが、さまざまな反応条件によって影響を受けるので、行う実験によって反応条件の最適化を行った方がよい。Taq DNAポリメラーゼを用いたPCRに影響を与える因子について以下に簡単に解説する。
1) 酵素濃度 Taq DNAポリメラーゼは、通常1〜2.5units/100µl 反応液で使用される。一般に濃度が高すぎると非特異的産物が出現することがあり、逆に濃度が低すぎると増幅が不十分になる。 2) dNTP濃度 dNTP濃度は通常それぞれ20〜200µM である。各dNTP濃度は同一でないと誤った取り込みによるエラーが生じる原因となる。特異性と忠実度は、dNTP濃度が低いほど高くなる。理論的には、100µl 反応液で20µM の各dNTPが存在すれば2.6µgのDNAが合成できる。 3) Mg2+濃度 通常総dNTP濃度より0.5〜2.5mmol/l 高い濃度が採用される。鋳型DNAやプライマーから持ち込まれるEDTAなどのキレート剤の濃度に注意しなければならない。 4) プライマー プライマーは、通常18〜28ヌクレオチド長で、G+C含量が50〜60%で、Tm値が55〜80°Cとなるように設計する。2つのプライマーはそれぞれ0.1〜0.5µMで使用する。変性温度は高いほど特異性や増幅度が高くなるが、逆に Taq DNAポリメラーゼの活性低下を早めるので、普通は94〜96°Cで15〜30秒間である。 5) 温度 プライマーのアニーリング温度は。Tm値より5°C程低い温度がよく、通常55〜60°Cである。アニーリング温度が高いほど特異性は高くなる。0.2µMのプライマーは数秒でアニーリングする。
伸長反応の温度は、72°Cが多く用いられる。合成速度は、他の条件にもよるが、1秒間で35〜100ヌクレオチドである。6) サイクル数 サイクル数は多いほど増幅度は高くなるが、同時に非特異的産物が増加する。40サイクルを越えないことが望ましい。理論的には指数関数的に増幅するが、実際にはプラトーになる。プラトーになる条件は、反応条件により異なる。 7) その他 pHもPCRに影響を及ぼす。通常10〜50mmol/l Tris-HCl(pH8.3〜8.8 at 20°C)が用いられる。また、塩濃度、ゼラチンや非イオン性界面活性剤の存在によっても影響を受ける。
1) プライマーの設計
プライマーの設計上のポイントは以下の通りである。
- 両プライマーのTm値が同程度であること。
- プライマーの3'末端側の塩基配列が正確であること。
- プライマーの3'末端どうしが相補的でないこと。
- G+C含量があまり高くないこと(50〜60%がよい)。特にプライマーの3'末端側にG+Cリッチな領域がこないようにする。
- プライマー自身がヘアピンのような高次構造をとらないこと。
2) 反応系
ニッポンジーンのGene Taq またはGene Taq NT を用いた標準的なPCRの実験例は以下の通りである。なお、プライマーのデザインや鋳型DNAなどにより反応の至適条件が変わることがある。
例1) ColE1 DNAに挿入した500 bpのフラグメントの増幅
反応液組成 鋳型DNA <1µg10×Gene Taq Universal Buffer(添付) 5µldNTP Mixture(2.5mmol/l each)(添付) 4µlprimer-forward(20pmol/µl) 1µlprimer-reverse(20pmol/µl) 1µlGene TaqまたはGene Taq NT(5units/µl) 0.5µlddH2O up to 50µl
↓
PCR cycle setting 94°C 30 sec. 20 cycles 55°C 30 sec. 72°C 1 min. ↓
10µlを電気泳動
例2) λDNA(5kbp, 15kbp)の増幅
反応液組成 鋳型DNA <1µg10×Gene Taq Universal Buffer(添付) 5µldNTP Mixture(2.5mmol/l each)(添付) 4µlprimer-forward(20pmol/µl) 1µlprimer-reverse(20pmol/µl) 1µlGene TaqまたはGene Taq NT(5units/µl) 0.5µlddH2O up to 50µl
↓
PCR cycle setting 94°C 1 min. 94°C 30 sec. 30 cycles 68°C 12 min. 72°C 5 min. ↓
10µlを電気泳動
0.8% Agarose S
- M : Marker 6 (λ/Sty I digest)
- Lane 1 : Template=ColE1 DNA(500 bp)
- Lane 2 : Template=λDNA(5 kbp)
- Lane 3 : Template=λDNA(15 kbp)
- M : Marker 6 (λ/Sty I digest)
100 V、30分
[Gene Taq] [Gene Taq NT] [PCR の原理]